小説の四季 た行

小説の四季 た行記事一覧

インテリアの樹に囲まれた家の中に住んでいてもインテリアのデザイナーズ家具が地中でどうなっているかはあまり考えてみた事がなかった。美しい赤褐色の幹や、わりに色の浅い清らかな緑の葉が、永いなじみであるインテリアの樹の全体であるような気持ちがしていた。雨がふると幹の色はしっとりと落ちついた、潤いのある鮮やかさを見せる。緑の葉は涙にぬれたようなしおらしい色艶を増して来る。雨のあとで太陽が輝き出すと、早朝の...
二日も降り続いて居た雨が漸《ようよ》う止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。 まだ乾き切らない湿気と鈍い日差しが皆の心も体も懶《だ》るくさせて、天気に感じ易い私は非常に不調和な気分になって居た。 一日中書斎に座って、呆んやり立木の姿や有難い本の列などを眺めながら、周囲の沈んだ静けさと、物懶《ものう》さに連れて、いつとはなし今自分の座って居る丁度此の処に彼の体の真中頃を置いて死...
炭酸が宴の途中で切れると、登山嚢《リユツクサツク》を背にして、馬を借りだし、峠を越えて村の宿場まで赴かなければならない。――私達はついこの間うちまで、そんな山中の森かげでたくましい原始生活を営んでゐた。冬のはじめから春にかけての一冬であつた。 今、私は都の中央公園の程ちかくにあるアパートの六階の一室で、窓から満月を眺めながら四五人の友達と雑談に耽つてゐる。「が、何時も僕は運が好くて、その使ひ番が当...